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近状報告?とか。
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『 あひる 』



気付けば十八となり、視力も以前より衰えた。

そのせいであろうか。
顧みると弱々しい糸で紡がれた橋が、少し丈夫な絹の道へて見間違えるのは。
そのせいであろうか。
目の前がくすんだ硝子細工を通した様に何も見えないのは。

いや、これらは視覚のせいではなかろう。
これが夢であるからだ。
それだからこそ、足を地べたにつけている感覚はまるでない。
そればかりかいつどのような経緯でこの不可思議な場所に居るのかも、皆目検討がつかない次第である。


夢で立ち止まっても仕方のないことのように思われたので、私は前に向かい歩き始めた。
しかし先に述べたように感覚はなく、私の足は雲となったのであろうかと勘違いするほどぼんやりとした足取りであった。

思い返せば、私の性格もこのようなものだった。

外では愉快だの煩いだの様々に言われ、時には面白がられ時には疎まれてきた。
内なる心はそれらに怯え醜き心の固まりであった。
そしてそれを隠すべく、しゃがれた声を張り上げ続けた。

そういった心情の末であろうか、気がつけば雲の如く流されやすい浮わついた卑しき感情が私の内部に染み込んでいた。


あぁ、なんたることか。
謝りたいのは友である。
このような私に話しかけてくれた温かなる友らよ。
私は君らを幾度も苦しめてしまった。



そう、ちょうどこのように―――。

私の老いた瞳に映るのは粗末なゴミ捨て場の如きがらくたの山。
しかしそれはとても馴染みある物の山だった。
何故ならかつて私が愛した宝の山でなのだから。

数々の低能なる本、安っぽい音、粗悪な絵。
かつて輝いていたそれらは私の濁った目ではそのように見えたのであった。

ああ、なんたることだろう。
いっときの気の高ぶりで必要以上に執着し、しかし四季の移り目の如く気まぐれに飽きた玩具たち。
あれほど渇望し依存していたそれらは、今はただの芥である。

憎むべきは私の性分。
それらを見捨てた私そのもの。

絶望感が鉛のように重苦しく沈んだ私の心を更なる絶望が追い討ちをかける。


ああ、そうだ。
これぞまさしく私の失敗作。
私の愚行を重ねた末路。
膨大なる時間を無駄にした人生の芥―――。


「私の… 」

私の小説であった。文章であることすら烏滸がましい低劣で貧弱な紙きれ。
そこの芥の山よりも愚劣で哀れなみすぼらしいもの。
それは当然と言えば当然であった。
なにせ卑しき自分がその芥の山を漁り繋ぎ合わせた、ただそれだけなのだから。
なんたる愚行と過ちだろうか。その上これが真の心より出でた他とは違う文であると思った馬鹿げた心など、どのようにしたら言えるのであろうか。
いや、言えるはずがない。
目の前にはかつて嬉々として積み重ねられた妄りな塔。
それを見据えるは勉学に励まずこのような不実な世界に陶酔し幼稚なことをやってきた自分。

自分自身を責め立てる言葉が矢継ぎ早に駆け巡る。


はたしてどのようにしたらよいのであろう。
全てを破り捨てても過去は消えず。
そしてこのような状態となりても浅ましい心は筆を求め続ける。
物を見捨て、絶望にうちひしがれて尚この様である。紡がれる話は何処かで使い回された物語だというのに。わずかな独創を加えた如何様の作品であるというのに。
いかにすればいい。いかにすれば、私は勉学に励みこの性格を直せるのであろう。いかにすれば私は誰もが称賛する文が書ける。


ああ、考えるのも空しいこの事象。いかにと思案することさえ無意味というのに。筆を求めて仕方ない。
これ以上、何を捨てるというのか。偽装と欺瞞に満ちた物をどんなふざけた心が求めるというのだろう。
このような事自体考えるに及ばない。ただちに筆をへし折るべきなのだ。
その決意を邪魔する物は自尊心であった。
ただでさえ腐れた性格であるというのに、その上安価な自尊心がこびりついて、なんと無様な様であろう。
頑なに私の自尊心が筆を握って放さない。


ああ、友よ。
私の大事な友人たちよ。
不甲斐なき自分は筆を折れないのだ。
どうかお許しになってほしい。





堪らず折ったのは膝である。

嫌気が差したのだ。
書くことへの汚なき執着。
生きることへの怠慢。
流されやすく浮ついた性分。
その上、玩具を友を見捨て我が道へと逃げ去ること。


夢ならもう醒めてくれ…。
膨大な紙の束。芥の山。
それを濁った意識で見るは十八の私。
幼稚で浅はかな私。年相応ではない私。


ああ、これは悔し涙であろうか。
瞳からぽたりぽたりと流れ行くは小さき雫。
ああ。叫んでしまいたい。
心ゆくまで叫んでしまいたいのだ。
私の声がひびとなり、殻が割れるまで―――。



















(2011.04.10-12)
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